キャッシューフローと返済予定の差額

定量的な収支見通しの方法を一般的な製造業を想定して図でモデル的に表してみる。まず売上局の予想を立てる。業界の中における競争力がどの程度であるか、増産計画、実質価格の上昇見込み、マーケット・シェアなどを勘案したうえで、これまでの実績に照らして被格付け会社の申し出数値にとらわれずに担当アナリストが予想を立てる。次いでコストを見積もって税前利益予想を出し、税金(例では税率50%としている)を控除して税引後利益を計算する。

この例では、初年度と2年度が200億円、3、4年度が300億円、5年度が350億円と増益が見込まれている。税引後利益から配当と役員賞与を引いたものが内部留保となる。コストの中の減価償却費など現金支出を伴わない引当金と内部留保を足したものが社債を含む全体の長期債務の償還財源となる。

格付け業界ではこれをキヤツシュ・フロー(内部留保十減価償却費)と呼び、格付け上重要な指標の一つとされている。この償還財源に対して格付け対象の社債を含む長期負債の返済予定がどのくらいあるかを対比する。返済の予定が決まっている債務については契約に基づく返済額を計上し、これから発行する債券や長期借入金については見込額で返済を計上する。

この例では償還財源(キャッシュ・フローと返済予定の差額である余裕金)が社債発行後2年目までは40億円と少ないが、3年目以降は償還財源の増加が見込まれるのでかなりの余裕が予想されている。長期債務残高を償還財源で割ると、そのときの償還財源の水準で長期債務を返済していくとあと何年かかるか(償還年数)という大まかな予想がつく。例では予想初年度の償還年数は九年であるが、次第に短くなっていき、5年目に残り3、5年となっているので格付け対象の社債発行後10年以内にすべての長期債務を返済できることになる。

アメリカ企業は日本企業に比べて競争が激しく利益変動の幅も大きいので債務残高に対して日本企業より多くの償還財源を保有する傾向がある。そのため分子と分母を逆にして長期債務残高に対する償還財源の比率(キャッシュ・フロー比率と呼ばれる)として見るのが普通である。さらに安全のために返済財源に不足が生じた場合の流動性資産(現預金や市場性証券など)がどの程度期待できるかを試算する。例では初年度の流動性資産が100億円あり、年々のキャツシュ・フローの余裕が累積されて5年目には660億円の流動性資産が見込まれている。

一方、景気変動や思わぬ利益の減少に対して備えるために財務的な健全性がどの程度あるかを見る。代表的な指標として自己資本比率がある。自己資本が十分にあるということはスケジュールに沿って確実に返済していかなければならない負債が相対的に小さいということであるから、利益が減少したときなどは配当を控えることによって社債の返済を優先することが可能になるわけである。

— posted by バンバンジー at 12:24 pm